広島地方裁判所 昭和62年(行ウ)15号 判決 1991年1月29日
主文
一 本件訴えを却下する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一 請求
被告が昭和五〇年三月六日付で別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)について指令呉農経第五七一号をもってなした農地法五条の規定による農地所有権移転許可処分(以下「本件許可処分」という。)を取り消す。
第二 事案の概要
一 争いのない事実
1 被告は、本件土地について、譲渡人原告、同品川シゲ、同井村悦子、譲受人河原考男の計四名から昭和五〇年一月八日、農地法五条の規定による農地所有権移転許可処分の申請があったと認めて、昭和五〇年三月六日、本件許可処分をなした。
2 原告は、昭和六〇年一〇月九日、本件許可処分は違法であるから取り消されるべきである旨主張して右処分について農林水産大臣に審査請求をなしたところ、昭和六二年八月一二日、同大臣から右審査請求を却下するとの裁決書を受領した。
二 争点
原告に本件許可処分の取消を求める利益が存するか。
第三 争点に対する判断
農地について所有権を移転する場合には、原則として、売買契約等の成立前に農地法所定の都道府県知事等の許可を受けなければならないが(農地法三条、五条)、農地である土地の売買契約後に右土地が完全に宅地に変じた場合には、右売買契約等について都道府県知事等の許可は不要に帰し、右売買契約等は右許可を経ることなく完全に効力を生ずるに至るものと解するのが相当である。
しかるに、本件証拠(甲一の1、二、一二、乙四の4、5、証人片山和明)によれば、河原考男は、原告の父品川貞一から、昭和四九年一一月一八日、本件土地を代金三五五万四二〇〇円で買い受けた(以下「本件売買契約」という。)こと、当時、本件土地の地目は田であり、その現況は休耕地であったところ、右売買契約においては、永久的に宅地として利用されることが当事者間で前提とされていたこと、河原考男は、本件売買契約後本件土地を土盛りし、昭和五二年一〇月頃本件土地上に木造瓦葺二階建居宅を新築し、爾来ここに居住していることが認められる。してみると、本件土地は右時点で完全に宅地に変じたものと認められるから、本件売買契約について都道府県知事の許可は不要に帰し、同契約は右許可を経ることなく完全に効力を生ずるに至ったというべきである。そうである以上、仮に本件許可処分を取り消しても、本件売買契約の効力に何ら影響を与えないから、本件許可処分の取消を求める訴えは訴えの利益を欠くものといわざるを得ない。したがって、本件訴えは不適法である。
別紙(省略)